電子書籍 ePub電子書籍の作り方1:How to create an ePub ebook?
ePUB電子書籍制作に関するレイアウトの問題点
現在、電子書籍には様々なフォーマットが存在しますが、最も有望視されているファイルフォーマットはePUBです。
ePUBが今後主流になる理由としては、第一にオープンであるということ、第二に既存のXMLやCSSをベースにしているテキストファイルであるということ(ZIP圧縮された拡張子ePUBファイルですが、)第三に多くの電子書籍関連ベンダーがサポートし、ファイル制作者の間でも標準形式として認知されていることなどが上げられます。
(現在KindleはePUBを採用していません。)
しかし、このePUBフォーマットは旧来の紙媒体による書籍の延長線上で電子書籍を捕らえた場合、様々な問題点を感じます。
単純なところでは、日本語固有の縦書、ルビ、縦書き横書きの混在、縦中横、傍点などへの非対応が考えられます。
私自身はこれらは大した問題では無いと考えていますが、今回、電子書籍を作成して、感じた最も大きな問題点はページの存在そのものでした。
紙媒体による書籍はページの概念があり、電子書籍もその延長線上での発想なので、ページの概念があります。
(厳密にはePUBを表示するリーダーソフトの多くが紙書籍のメタファを採用しているためです。)
最近発売された、appleのiPadなどではアニメーションによるページめくりが擬似的に再現されています。
何らかの情報セクションを移動していることを明確にするためのインターフェイスは意味のあることだと思いますが、本来このページめくりは電子書籍には必要ありません。
もちろん、紙書籍では単ページで表現しきれない情報を“見開き”で表現したり、ページの表と裏を利用して情報を伝えるといった物理的な手法であり、ページの存在とそれを利用した様々な表現方法の発生は自然なことです。
しかし、これらの紙書籍固有のレイアウトを電子書籍(ePUB)で再現するには今後様々な問題が発生し、その多くは解消しないでしょう。
ページめくり自体が古いノスタルジックなインターフェイスと言えるでしょう。
電子書籍の作成ニーズについて
電子書籍の作成には大きく分けて二つの市場ニーズが発生します。
一つは旧来の書籍を電子化する流れです。
現在多くの紙書籍が存在しますので、それらの資源を電子書籍化するニーズは非常に高いものがあります。
ただ、殆どの情報は20年程度のライフサイクルしか持っていませんので、今から20~30年後に紙書籍情報の電子化に取り掛かると無駄な作業が随分と省けるでしょう。
もう一つは、今後作成されるピュアな電子書籍(ePUB)です。
Amazon、iPadなどのマーケットの拡大を考慮に入れ電子書籍普及のスピードを考えると、ピュアな電子書籍を出版することは最も優先すべき課題の一つです。
旧来の書籍を電子化する
小説など文字を中心とした書籍
前述したように、実際にはあらゆる情報には寿命があるので、実際には現存する殆どの書籍は電子化する必要は無いでしょう。
電子化を考慮しなければならない物としてはベストセラー作家や再版を繰り返しているもの、歴史的価値のある書籍などでしょう。
レイアウト上、縦書きやルビの実現といった小さな問題は見られますが、不況下にある出版界にとって、今後の電子書籍マーケットのチャンスと市場ニーズを無視する材料にはならないでしょう。
たとえ表現上の問題は解決されてもされなくても、電子書籍の普及を阻害する要因にはならないというのが個人的な予測です。
(追記:辞書類はファイルの特性からePUB化には向いていないでしょう。)
コミック類
多くの作品が、単ページでレイアウトされていますので、こちらも大きな問題は発生しないと思われます。ただ、これらのコミックはePUBといっても紙面をスキャニングしただけの画像中心の電子書籍となります。
基本は画像データですが、主要な章の目次は作成しておきます。
HOW TO本やマニュアル
簡単なイメージに対するfloat処理程度でしたら可能でしょうが、レイアウトが複雑なものはePUBに向いていません。
紙書籍で見られるコンピュータ関係のHOW TO本のレイアウトなどは再現不可能でしょう。
現在のリーダーはCSSが普及し出した頃のWEBブラウザに似ています。
ePUBの分野でもテーブルタグによるレイアウトが一時的に再度注目を浴びるのではないかとも思っている程ですが、セマンティックな流れから考えると止めた方が良さそうですね。
雑誌類
上記のHOW TO本やマニュアルと同じ理由で、現在の雑誌レイアウトをePUBで再現することは不可能でしょう。
iPadなどではアプリ化された電子書籍も数多くリリースされるでしょう。既存の高級雑誌などはこの方法での再現が現実的です。
絵本や写真集(見開きなど変則的なレイアウトが発生する書籍)
絵本や写真集などもページの概念を利用したレイアウトが多く見られますので、ePUB向きとはいえませんが、レイアウトそのものは単純なので今後より単純化された電子書籍がリリースされると思います。
HOW TO本やマニュアルの寿命は短いので、慌ててePUB化する必要は無いかも知れません。
とにかくiPadで読める書籍にをリリースしたいのであれば、画像によるePUBが最も手っ取り早い方法ですね。
絵本なども現在のePUB向きでないことは確かですが、今後もレイアウトが不可能な訳でははありません。
これらのレイアウトに関するノウハウと言語の改善により可能になると思っています。
特にレイアウト上のノウハウはiPadのような実機が市場に広がることによって急速に確立してゆくでしょう。
次に純粋な電子書籍(ePUB)の作成を考えてみます。
ピュアな電子書籍(ePUB)の作成
小説など文字を中心とした書籍
文章が中心の書籍はePUB向きです。
携帯小説などが受け入れられている現状から考えても、あまり複雑なレイアウトは必要ないでしょう。
レイアウトとしては横書き、挿絵等は極力排除した方が良いでしょう。
挿絵を挿入する場合は文字を回り込ませず、センタリングにより段落内に配置するのが良いでしょう。
縦書きに比べて横書きの日本語は一行あたりの文字数が多くなると極端に読み辛くなるので、文章に区切りに考慮しなければなりません。
コミック類
コミック類は今後海外市場を考えた場合、左開きの文字横組みで作成するのが良いでしょう。
これはePUBフォーマットとは直接関係ありませんが、他の種類の書籍にも共通し、書籍が電子化することによって海外市場での流通問題は解消します。
クリエーターは自己の作品を如何にグローバル仕様で作成しておくかを考えなければなりません。
国内向けの右開きの縦書きコミックを作成する場合も、漫画家は右、左、どちらのページ配置でも可能なように構成する必要があります。(鏡面反転にも耐えれる絵とレイアウト構成が必要かもしれませんね。)
文字をテキストデータのままレイアウトするのが理想ですが、それはちょっと難しいので、画像が主流となるでしょう。
画像による文字表示がどの程度まで可能かという問題はWEBページの世界でも同じですが、デバイスにより画面解像度が違ってきますので、実機テストが必要です。
HOW TO本やマニュアル、絵本や写真集
既存の紙書籍レイアウトとは違ったアプローチのレイアウトが必要です。
既に米国あたりでは簡潔(単純)なpdfによるマニュアルなどが見られますので、このあたりが見本になるでしょう。
現在よく見られる図版や複雑な表を使ったレイアウトは避けるべきでしょう。
図版の挿入の場合は文字を回り込ませず、センタリングにより段落内に配置するのが良いでしょう。
レイアウトそのものは単純なものが推奨されますが、ePUBはSVGの埋め込みも可能ですので、図版の表現力は相対的に増すと思われます。
雑誌類
ePUBによる自由なレイアウトは模索されるべきですが、雑誌のような「構造化していない」ドキュメントは最もePUBには不向きなので、新たなレイアウト思考が必要となります。
それは、前述のSVGを多用したものかも知れませんし、紙雑誌を作成したデータからそのまま画像出力したものでePUBファイルを作成したものかも知れません。 (デザイナーの腕の見せ所ですね。)
多くの出版者が望む分野ですが、確率した手法は見られません。
後述するiPadの表現力から考えると、iPadアプリの可能性が最も高いのかも知れません。
今後の書籍販売は、電子書籍販売を行い必要であればオンデマンド印刷によるプリント本の販売にも対応するのが直近のニーズに合致した方法だと思えます。
雑誌などレイアウトの複雑な書籍がePUBに向いていないことは確かですが、だから、「pdf」で、という結論ではありません。
InDesignなどで構造化していない書籍を「自由」にレイアウトし、pdfやアプリ書籍としてリリースするのは商売的に言えば正しいかもしれませんが、そ れは将来再利用できないデータ的クズ書籍を市場に広める行為だと思います。
「近々紙の本が無くなるのか?」と言った議論が良く聞かれますが、「無くなる」がどの程度のことを指しているかによってその答えは変わってきます。
しかしながら、書籍にとって本当に意味があり必要なものが、テキストであり情報であることを考えると紙書籍の体裁そのものは本来邪魔なものであると思えてなりません。
私自身も「本」が好きですが、私が好きなのは「本」というフォルムではなくその「中身」です。
ようやく書籍は「紙」という重い殻を脱ぎ捨てることができる時代になったのだと思います。
著作商品を売るマーケットは存在し続けますが、本を売るマーケットは無くなるでしょう。
ePUBリーダーを考える
結局のところePUBファイルを表示するのはリーダーソフトや電子書籍端末です。
そのためePUBファイルにおけるエディトリアルデザインを考えた場合、最も注意しなければならないことはどのターゲット(デバイス)に対してファイルを作成(レイアウト)するのかといったことです。
WEBの世界ではモダンブラウザが主流になり、IEの呪縛かも開放されつつあります。
しかし残念ながら、ePUBファイルを表示する端末やソフトには様々なものがあり、これらのソフトウェア上での表示互換は暫くの間、期待できないでしょう。
そのため、明確なターゲット(リーダーデバイス)を決めた後に書籍のレイアウトを行う必要があります。
画面比
ePUBファイルの表示は基本的に伸縮自在です。
文字サイズも自由に変更可能ですので、通常はレイアウト幅100%に設定し、文章はWEBページと同様に句点で改行するのが基本です。
そのためレイアウトには画面の縦横比が関係します。
以下の資料から考えても、概ね1:0.7程度でレイアウトするのが良いでしょう。
注意)現在KindleはePUBに対応していません。
今後ePUBに対応することを強く望んで(信じて)います。
デバイス | 解像度 | 画面比 |
Aサイズ | 210mm x 297mm | 0.7:1 |
iPad | 768px x 1024px | 0.75:1 |
Kindle2 | 600px × 800px | 0.75:1 |
Kindle DX | 824px × 1200px | 0.68:1 |
※iPadでは画面を横に倒すと表示されている書籍が見開き状態で表示されます。
これは見た目非常に面白いのですが、ePUBを基本とした電子書籍には全く意味の無い機能であるばかりか、この機能があるために誤ったレイアウトのePUB書籍が多くリリースされるかも知れません。
モノクロ/カラー(アニメーション)
現在、KindleはE Inkを使ったグレースケールディスプレーです。
1~2年以内程度でカラー化した電子ペーパーが採用されるでしょうが、今現在はiPadのみがカラー対応電子書籍デバイスといえるでしょう。
本来、iPadとKindleはまったく開発コンセプトが違い、よりピュアな電子書籍端末はKindleだと言えます。
将来、Kindleがカラー化されても電子ペーパーの表示可能なフレームレートは低いので、快適なアニメーション表示は暫く先のことになりそうです。
この点から推測して、カラー表現の電子書籍はあと1年~2年程度はiPad(もしくはコピー商品)の独占市場であり、よりリッチ(マルチメディア的)な電子書籍は4年~5年程度、こちらもiPad(もしくはコピー商品)の独占市場となります。
ただ、これらのリッチ電子書籍のマーケット(非ePUB書籍)規模がどの程度かは現時点で判断できませんが、個人的にはePUBマーケットがその何十倍にも拡大すると考えています。
追記)ここで私が現在ePUBに対応していないKindleに言及するのは、Kindleが最も電子書籍端末として完成しているからです。
また、Kindleを発売しているAmazonは電子書籍マーケットを左右する大きな存在として無視できず、今後電子書籍をリリースする全ての関係者にとっては悩みの種になるからです。
そう、KindleがePUBに対応してくれないと困るのです。。