生成AIを使った制作物の見積もり
最近、生成AIを活用した動画制作を行う機会が増えてきた。AIの活用によって、従来のワークフローにどのような変化があるのか、そして見積もりにどのような影響を与えるのかを整理するため、この記事で基本の基本を執筆する。
尚、静止画、動画、SE、音楽、ボイス等生成物を含む制作対象として動画を例にしている。他の分野でも参考になるのではないだろうか。
AIの利用はすべての業務に適用できるわけではないが、私が専門とする イラスト、デザイン、動画、3D、執筆、学校教育業務、ゲーム企画 などの分野では、すでに大きな影響を及ぼしつつあり、AIを利用したことにより発生しうる費用をどのように算出するかは重要な近々の課題である。
私自身これらの分野における見積もり経験は比較的豊富なため、少しばかりの参考と、そして私自身のための、将来の検証に備えた覚書としたい。
もちろん大前提となるのは、費用算出と設定は個人、企業の自由裁定事項であり本ブログによる提示費用はあくまでもほんの一例の参考値であることに留意が必要である。
一般的に言っても、提示した費用の0.3~10倍程度の費用設定は一般的な範囲である。
尚、本ブログでは生成AI(一般的なマルチモーダル)を端にAIと記す。
1分半のプロモーション動画(30カット想定)
想定仕様
- 尺: 1分30秒
- 想定カット数: 約30カット(10秒想定/1カット)
- 構成: ストーリーボード → AI映像生成 → 編集(手作業)・エフェクト → ナレーション(未定)・BGM
- 納期:従来制作 約2~4週間、AI活用 約1.5~3週間
- ※AI活用版はプロンプト調整・ガチャ回数増加を反映
1. 従来の制作(手作業中心)
項目 | 工数 | カット数目安 | 費用 (目安) |
---|---|---|---|
コンセプト設計・ストーリーボード | 2~3日 | 30カット | ¥50,000~¥100,000 |
映像・アセット制作(撮影 or 3D・イラスト) | 5~7日 | 30カット | ¥150,000~¥300,000 |
アニメーション・編集(手作業) | 5~10日 | 30カット | ¥200,000~¥500,000 |
エフェクト・テキストアニメーション | 2~4日 | 10~15カット | ¥50,000~¥150,000 |
ナレーション(プロ声優・録音) | 1~2日 | 1本 | ¥30,000~¥100,000 |
BGM・サウンドデザイン(作曲 or 既存曲) | 1~3日 | 1曲 | ¥30,000~¥80,000 |
最終調整・修正対応 | 2~5日 | 全カット | ¥50,000~¥100,000 |
合計 | 約2~4週間 | 30カット | ¥560,000~¥1,330,000 |
2. 生成AIを活用した場合(プロンプト試行錯誤を考慮)
項目 | 工数 | カット数目安 | 費用 (目安) |
---|---|---|---|
コンセプト設計(AI補助) | 1~2日 | 30カット | ¥30,000~¥60,000 |
AI映像生成プロセス(※詳細内訳あり) | 4~6日 | 30カット | ¥120,000~¥300,000 |
AIアニメーション・編集 | 2~5日 | 30カット | ¥100,000~¥250,000 |
エフェクト・テキストAI生成 | 1~2日 | 10~15カット | ¥30,000~¥60,000 |
AIナレーション生成(未定) | 0.5~1日 | 1本 | ¥20,000~¥50,000 |
AI作曲・BGM生成 | 1日 | 1曲 | ¥20,000~¥50,000 |
AI環境構築・技術料 | – | – | ¥100,000~¥200,000 |
最終調整・修正(人間によるチェック) | 2~4日 | 全カット | ¥50,000~¥100,000 |
合計 | 約1.5~3週間 | 30カット | ¥470,000~¥1,070,000 |
AI生成物に関する注意事項のひな型
AI利用による業務発生の場合は、幾つかの取り決め(覚書)をクライアントと間に結ぶ必要が感じられる。
著作権など様々考えられるが、以下は生成物そのものに関する手作業による制作との違いをクライアントに認識させるためのものである。
AI生成物に関する覚書
当プロジェクトでは、画像、映像、音楽等制作の一部に生成AIを活用しております。
AIを活用することで短期間での制作が可能となりますが、AIの特性上、必ずしも意図通りの出力が得られるとは限りません。
そのため、以下の点についてあらかじめご理解・ご了承をお願いいたします。
- AI生成結果は100%制御できるものではありません。
- AIによる生成物の出力は、プロンプト(指示)の工夫や複数回の試行を通じて調整を行いますが、従来の完全手作業と異なり、細かい部分まで意図通りに仕上げることが難しい場合があります。
- そのため、全カットを完全にカスタム制作するものとは異なり、「AIが生成可能な範囲での最適化した制作」を行うことが前提となります。
- AI生成結果の試行回数には限度があります
- AI生成には「ガチャ(出力を予測できない)要素」が含まれ、理想の出力が得られるまで試行を重ねる必要があります。
- 一定回数(例:1カットあたり5~10回)以上の試行が必要な場合、追加費用や納期延長の対象となることがあります。
- AI生成後の修正は可能ですが、調整内容には制限があります。
- AIが生成した映像の微調整や合成は可能ですが、大幅なデザイン変更が必要な場合は、手作業での修正が発生するため追加費用が発生することがあります。
- 具体的な修正範囲については、初期段階でのご相談のうえ決定いたします。
- AI特有のアーティファクト(ノイズ・歪み・不自然な動き)が発生する可能性があります。
- 最新のAIツールを活用しておりますが、現時点では完全な品質保証が難しい部分があることをご理解ください。
- 明らかな違和感がある場合は、可能な範囲で修正を行いますが、AIの特性上、完全に取り除くことが困難なケースもあります。
- 日本語画像の生成はできません。
- 現在の生成AIでは日本語が含まれる静止画、動画の生成はできません。(2025年2月25日現在)
- ナレーションとリップシンク
- 現在の生成AIでは日本語ナレーションの生成は可能ですが、リップシンクが不完全です。
そのためキャラクターの口の動きに合わせたナレーションなどの表現に限界があります。(2025年2月25日現在)
- 現在の生成AIでは日本語ナレーションの生成は可能ですが、リップシンクが不完全です。
以上の点をご理解いただいた上で、AIを活用した映像制作をご依頼いただきますようお願いいたします。
AIの活用により短期間での制作が可能になる一方、従来の手作業とは異なるワークフローであることをご承知ください。
AI生成によるコンテンツ制作のメリット
コンテンツ(映像等)制作の一部にAIを活用することで、従来の手法では難しかった表現や短期間での制作を実現しています。
特に、中小規模の制作チームでは実現が困難だった大規模なセットや役者を必要とするシーンの制作が可能となる点が、大きなメリットです。
1. 実写撮影では難しいシーンを手軽に実現
- 実際にロケ地を確保したり、大規模なセットを組むことなく、壮大な風景や未来都市、ファンタジー世界などをリアルに表現できます。
- 例えば、海外の都市や歴史的な建造物を背景にした撮影も、AIによって再現できます。
2. 役者を手配しなくても、AIによる人物生成が可能
- 大規模なエキストラや俳優のキャスティングが不要になり、コンテンツの自由度が向上します。
- 例えば、特定のシチュエーション(戦争シーン・群衆シーン・ファンタジーキャラクターなど)をAIで生成することで、実写では困難な制作が可能になります。
3. 低コストで高クオリティな映像表現
- 映画のようなスケール感のある映像を、限られた予算内で制作できるため、クライアントの負担を軽減できます。
- 特に、広告映像・MV・ゲームプロモーションなどでは、短期間でリッチなビジュアルを実現できる点が強みです。
AIを活用した映像制作のメリット・デメリットの一覧
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
制作コスト | 従来の撮影・制作に比べてセットやキャストのコストを削減できる | AIツールの使用料や技術者の費用が発生するため、単純に安くなるわけではない 特に生成指示者(制作者)は従来業務者であればディレクター以上のスキルが必要。 |
制作スピード | 短期間で映像を生成できるため、納期を大幅に短縮できる | AI生成は「ガチャ」要素があるため、試行錯誤に時間がかかる場合もある |
映像の自由度 | 中小企業では難しい大規模セットやエキストラが不要で、自由な映像表現が可能 実写では難しいファンタジー・SF・未来都市なども表現可能 | AIの生成結果は完全には制御できず、意図と異なる出力が出ることがある |
クオリティ | 2K(FHD1920x1080)程度の静止画、動画の生成は問題なし | 4Kなど大型の画像生成には向かない AIの出力にはノイズや不自然な動きが発生することがある |
修正対応 | AIを使うことで素早く別バージョンを作成できる | AIの結果を直接修正するのは難しく、場合によっては「AI準拠※」が必要 |
ナレーション・BGM | AIを使ったナレーション生成や自動作曲で低コストかつ短時間で制作可能 | 感情表現の精度が低い場合があり、クオリティ調整が必要 |
著作権・ライセンス | 商用利用可能なAIツールを活用すれば権利処理がスムーズ | AI生成物の権利関係が曖昧なケースがあり、使用範囲に制限があることも 特に企業案件では制作物の完全なオリジナリティに固執する傾向にあり注意が必要 |
クリエイターの関与 | AIが一部の作業を代替することで、クリエイターはより企画やデザインに集中できる | すべてをAI任せにするとオリジナリティが失われる可能性がある (オリジナルではあるが、AIは学習方法の結果により「極端」や「異質」なものよりも、「多くの人に受け入れられやすい」ものを生成する傾向がある。AI) デジャブ) |
適用範囲 | 広告・プロモーション・ゲーム・SNS動画など、幅広い用途に適用可能 | 実写映画や高度なCG制作では、AI単体ではクオリティが不十分 |
※「AI準拠」
AI準拠(AI-compliance / AI-adherence)とは、AIが生成したデータ・結果・設計・基準に従うことを前提としたルールやシステムの運用方針を指す。
AIの利用範囲
現在のAIを業務に利用できるユーザー層は、各分野のディレクター層に限られることが多い。AIツールは多機能である反面、設定や調整が必要なケースが多いため、プロジェクト全体の流れを把握し、適切にツールを活用するスキルが求められる。
ディレクター層は、プロジェクトの方向性を決定し、リソースを管理する役割を持っているため、AIを活用することで効果的に成果物に必要な要素に対しての制作指示が可能である。
例えば、動画制作の現場では、AIを利用したフッテージの制作時間を大幅に短縮することができる。しかし、どのシーンを強調するか、どのテイストに仕上げるかといったクリエイティブな判断は、ディレクターの手腕にかかっている。
同様に、ゲーム開発においても、AIがキャラクターのデザイン案を多数出してくれるが、その中から最もプロジェクトに合った案を選び、方向性を示すのはディレクターの役割である。