AI時代の3D・アニメ・デザイン制作で最後に残るもの
― 企画・構成・創造力・「見る目」は、経験とともに熟成していく
3DソフトやAIの進化のスピードが、正直ちょっと笑えないレベルになってきました。
テキストから3Dモデルが生まれたり、動画から3D空間を復元したり、ニューラルレンダリングがリアルタイムに近づいていたり。
そしてこれは、3Dに限った話ではありません。
アニメ制作、グラフィックデザイン、映像編集・コンポジットなど、ビジュアル表現の現場全体が、AIによって大きく揺さぶられています。
「じゃあ、これから3Dやアニメを学ぶ意味ってあるの?」
「長年やってきた“手作業のスキル”は、AIに全部飲み込まれるの?」
そんな不安を覚える人も多いと思います。
でも、僕は 技術やツールがどう変わっても、最後に残るのは “企画・構成・創造力・見る目” だ と考えています。
そして、この4つは、
若いころから一気に伸びるというより、経験を重ねるほどじわじわ効いてくるタイプのスキルなんです。
AIで「入口」が変わるのは、3Dもアニメも映像も同じ
これからの数年で、映像系の制作現場の「入口」は大きく変わるはずです。
- テキストプロンプトからキャラクターや背景を生成
- 写真や動画からシーンを復元(NeRFやGaussian Splat的な技術)
- 自動リグ、自動テクスチャ、自動レイアウト
- 自動コンポジット、自動編集、BGM自動生成
つまり、
「ゼロから手で全部作る」ことの価値は、どんどん下がっていく 可能性が高い。
若いころに必死で覚えた
モデリング、作画、レイアウト、カット編集、コンポジット、レンダリング設定……
これらはAIがかなり肩代わりしてしまう領域になるでしょう。
じゃあ、もう人間の出番はないのか?
クリエーターの仕事は、もともと「ライン作業」の側面も大きい
ここで一度、クリエーターという仕事の現実も見ておきたいです。
「クリエーター」と名乗っていても、
現場でやっていることのかなりの割合は、工場の製造ラインのような反復作業だったりします。
- 同じテイストのカットを量産する
- 指定どおりにパーツを差し替える
- テンプレに合わせてレイアウトを並べる
こうした仕事は、昔からずっと存在していて、
正直なところ「真の意味でのクリエーター職」ではありません。
本当の意味で「何を作るか」を決める役割を持てる人は、昔から一部だけでした。
それはAI時代になっても、たぶん構造は同じです。
- クリエーターという肩書きはこの先も必要とされる
- けれど、「ライン作業としてのクリエイティブ」を担っているだけのポジションは、AIによって真っ先に削られる
この二つが同時に起こると、僕は見ています。
だからこそ、
「ライン側のクリエーター」で終わるか、
「企画・構成・創造力・見る目」を武器にしたクリエーターにシフトするかが、AI時代の分かれ目になるはずです。
それでもAIが苦手な「人間の4スキル」
AIがどれだけ賢くなっても、今のところ極端に苦手な部分がいくつかあります。
僕が特に人間向けの作品つくりで大事だと思っているのが、この4つです。
1. 企画(何を作るか決める力)
- どんな世界観・ビジュアルスタイルにするのか
- 誰に向けて、どんな体験を届けるのか
- 3Dなのか、2Dなのか、実写なのか、その組み合わせはどうするのか
- シリーズなのか単発なのか、尺や媒体はどうするのか
こういう「そもそも論」は、現場の知識や社会の肌感覚がないと決められません。
3Dでもアニメでも、ここをAIに丸投げするのはまだまだ難しい。
2. 構成(全体を組み立てる力)
- 絵柄やトーンがバラバラになっていないか
- 物語とビジュアルが噛み合っているか
- シーンの並びや情報の出し方に流れがあるか
- カットのテンポや、画面の「間」の取り方は適切か
こうした“全体の組み立て”を考えて、
「このカットはいらない」「ここに一呼吸ほしい」
といった調整をしていく力は、長年の経験から生まれます。
3. 創造力(ゼロから発想する力や、意味のある組み合わせを作る力)
創造力というと「ゼロから何かまったく新しいものを思いつく力」と思われがちですが、
実際の現場では、
- ゼロからコンセプトを立ち上げる力
- 既存のモチーフを組み合わせて新しい文脈を作る力
- 「こう来たか!」という意外性を出す力
- 世界観に一貫性を持たせる力
このあたりがセットで問われます。
単に「変なものを出す」のではなく、
意味のある“ひねり”を加えるのは、AIが一番苦手とする領域です。
4. 見る目(ジャッジメント)
- この案はアリかナシか
- クオリティは十分か
- お客さん/クライアント/視聴者に刺さるか
- 「ウケる/ウケない」のラインをどこに引くか
これを一瞬で判断できる「目」は、
いろんな作品や現場を見てきたからこそ育つものです。
AIは案を大量に出すのは超得意です。
でも、その中から「どれを採用するか」「どう直すか」を決めるのは、まだまだ人間の仕事です。
これは3Dに限らず、アニメもグラフィックも映像編集も同じです。
なぜこれらは、経験とともに強くなっていくのか
キャリアの初期を振り返ると、どうしても
- 手を早く動かす
- 新しいソフト/技術をいち早く覚える
- 徹夜で根性を見せる
そういう勝負になりがちです。
ところが、ある程度時間が経つと、少しずつ状況が変わってきます。
- いろんな現場を見てきて、「うまくいった企画」「コケた企画」 のパターンが頭にたまってくる
- クライアントやスタッフ、学生とのやり取りで、人が何につまずくか が見えてくる
- 自分の「得意」と「苦手」がハッキリしてきて、やらなくていいことを切り捨てる判断ができる
この蓄積が、そのまま
- 企画力
- 構成力
- 創造力の“クセ”
- 見る目
に変わっていく。
だから僕は、
ある程度キャリアを積んだところから伸び始めるスキルこそが、AI時代の3D・アニメ・デザイン・映像制作のコアになる と感じています。
学生への提言:若い初心者ほど「ツールに保守的」になりやすい
学生を長く教えていると、ちょっとおもしろい現象をよく目にします。
本来いちばん柔軟なはずの若い初心者ほど、ツールに対して保守的になりやすいということです。
たとえば、こんなパターンです。
- 「自分は〇〇しか使いません」と、最初に覚えたソフトだけに固執する
- 先生や先輩から聞いた“正しい手順”から一歩もはみ出そうとしない
- 新しい機能やAIツールが出ても、「今のやり方が崩れるのが怖い」から触らない
教室の中では、学生の「自分はこのやり方で行きたい」という考え方を、頭ごなしに否定したくありません。
なので、あまり強くは主張しませんが、心の中ではこう思っています。
「そのツールだけを“守る”姿勢になってしまうと、
せっかくの若さと柔軟性がもったいない。」
とくにこれからの時代、
3Dもアニメもデザインも映像も、ツールの寿命がどんどん短くなっていくはずです。
AI機能や新しいワークフローが、数年単位どころか、数カ月単位で入れ替わっていきます。
そんな中で、
- 「このショートカットとメニュー構成だけを完璧に覚えれば将来安泰」
- 「このソフトだけを極めれば生きていける」
という発想は、かなり危険です。
本当に守るべきなのはソフトの名前ではなく、
- どう観察するか
- どう構成するか
- どう発想するか
- どう良し悪しを判断するか
といった頭の中のスキルのほうです。
ツールはそれを外に出すための「入れ物」にすぎません。
だから学生には、よくこう伝えています。
「ツールは使い捨て前提で覚えていい。
その代わり、企画・構成・創造力・見る目だけは、
どのツールに乗り換えても通用するように育ててほしい。」
ツールに詳しいことは悪いことではありません。
でも、「ツールにしがみつく姿勢」になった瞬間、
AI時代の変化から一番遠くなってしまいます。
若い初心者ほど、
“ツールを守る”のではなく、“自分の考え方を鍛えるためにツールを乗り換える”ぐらいの軽さを持っていてほしいと、教える立場から強く感じています。
若い学習者が直面する「学びの機会」の消失リスク
若い初学者(=これから学ぶ側)にとって、もうひとつ大きな問題があります。
それは、これから「学習機会」そのものが減っていく危険性があるということです。
現場ではこれまで、ジュニアアシスタントが
- トレース作業
- 細かいレタッチ
- カットのつなぎ作業
- 簡単なモデリングや量産作業
といった地味な仕事をこなしながら、
先輩の仕事を横で見て、注意されながら覚えていく、という構造がありました。
ところが、AIは、まっさきにこの「ジュニアの仕事」を奪います。
効率だけ考えれば、そこにAIを突っ込むのはほぼ確実だからです。
つまり、
- 「現場で雑用をしながら学ぶ」というルートがどんどん細くなる
- 「経験のための仕事」が、コストカットの対象になっていく
という、なかなかシビアな未来が見えています。
じゃあ、どうすればいいのか。僕なりの答えはシンプルで、
学習の主軸を
「現在のソフトの習得」だけに置くのをやめて、
「構想力・提案力・指示力・目を鍛えること」にも、しっかり割り振る。
ということです。
- 企画書やラフを自分で起こしてみる
- 「こういう方向性はどうか」と提案文を書いてみる
- 仮に自分がディレクターなら、AIや他のスタッフにどう指示を出すかを考えてみる
- いろんな作品を見て、自分なりの「良い/悪い」の基準を言語化する
こういった練習を、学校の課題と同じくらい“本気で”やっておく。
あと、少し具体的な、半分冗談・半分本気の提案をすると、
Adobeのサブスクを見直して、
一部を Affinity などの買い切りツールに切り替えつつ、
浮いた分の予算で先進の生成サービスに課金して使い倒す。
みたいな選択肢もアリだと思っています。(笑)
Photoshopの最新版の細かな新機能を全部追いかけるより、
- どの生成サービスがどんな絵を出すのか
- どんなプロンプトだと破綻しやすいか
- どんな用途なら実務に耐えるか
を、自分の手で試して把握している学生のほうが、
これからの現場では確実に強いはずです。
何十年やってきて思う:AI生成は「本物のクリエイティブツール」だ
僕自身、何十年もクリエイティブの仕事を続けてきて、
画像編集も、イラストも、映像編集も、3Dも、
ひと通りは「必要なときに、必要なクオリティで」こなせるようになってきました。
Photoshopの時代も、DTPからWEBの波も、ノンリニア編集の登場も、
3DCGソフトの進化も、カラス口からロットリング、写植屋さんの壊滅、一通り見てきたつもりです。
それでも、正直に言うと──
AI生成ほど「自由だ」と感じるツールには、今まで出会ったことがありません。
- 言葉やラフなスケッチから、一気に世界観を立ち上げられる
- テスト用のビジュアルや、方向性の違う案を短時間でいくつも出せる
- 自分一人では思いつかなかった組み合わせや解釈が返ってくる
こういう経験を何度も重ねていると、
AI生成は、間違いなく“本物のクリエイティブツール”だと感じています。
もちろん、AIが吐き出したものをそのまま出せばいいわけではありません。
むしろ重要なのは、
- 出てきた結果をどう読み解くか
- どの案を残し、どれを捨てるか
- そこに自分の企画や構成、世界観をどう上書きしていくか
という「人間側の編集・判断」です。
長くいろいろなツールを使ってきたからこそ、
AI生成は、ツールの“終着点”ではなく、
企画・構成・創造力・見る目を最大限に引き出す“究極のクリエイティブツール”だと感じています。
経験を重ねたクリエーターへ:求められ続けるが、ときに仕事も失う
ここまで書くと、「じゃあ経験者は安泰なのか」というと、そんなに甘くはありません。
- クリエーターという職種自体は、これからも必要とされ続けます。
- しかし同時に、クリエーターもまた、ときには仕事を失います。
特に、
- ライン作業が中心のポジション
- 「指示されたものを、指示どおりに作る」だけの仕事
は、優先的にAI化・自動化の対象になります。
だからこそ、
- 自分は「ライン側のクリエーター」なのか
- それとも、「企画・構成・創造力・見る目」を武器にする側に回るのか
を、意識的に選び直す必要があります。
すでに長くこの業界でやってきた人にとって、
選択肢はやはり二つです。
- 「もう若い人やAIには勝てない」と言って引くか
- 「自分の企画力・構成力・見る目を、AI時代にチューニングし直す」か。
- 3Dソフトや編集ソフトの最新機能を全部追いかけなくてもいい
- でも、AIツールが何を得意として、どこで破綻するかだけは、体感で知っておく
- そのうえで、「最後のジャッジ」を自分の役割にしてしまう
そういう立ち位置なら、
経験はむしろアドバンテージになります。
おわりに
AIやニューラルレンダリングは、確かにこれまでの3D制作を大きく変えます。
同時に、アニメやグラフィックデザイン、映像編集の現場にも、同じような波が押し寄せています。
でもそれは、「作る意味」や「企画の力」が消えるという話ではありません。
むしろ、
- 企画
- 構成
- 創造力
- 見る目
この4つを持っている人にとっては、
「手足(作業)」が一気に増える時代とも言えます。
クリエーターという名前の仕事は、
これからも必要とされ続ける一方で、
「ライン作業としてのクリエイティブ」にしがみつく人から順に仕事を失っていく、
そんな厳しさも同時に抱えています。
経験とともに熟成していく力。
年齢とともに、むしろ説得力が増していく力。
それをどうAI時代の3D・アニメ・デザイン・映像制作に載せていくか。
生成AIの時代、試されるのは、あなた自身が本物のクリエーターなのかということだけなのです。






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