書籍執筆あれこれ、後記。

コロナ禍の中、2冊の本を出版した。
ちなみに「禍」とは、わざわいの意味だ。何となく使ってはいてもコロナ禍以前には使ったことのない言葉だった。
今も紆余曲折を経ながら、加えて2冊の本が出版を待っているが、少し立ち止まってどこかの誰か、未来の自分に向かって忘れないうちに、忘れてはいけないことを記そう。

出版の目的

出版の目的は、一つだけでなく様々な理由がある。
2冊の本とは、2020年9月発売の『 入門Blender 2.9 ~ゼロから始める3D制作~ 』と2022年8月発売の『Maya スターターブック』である。
どちらも3Dソフト初心者向けの入門書である。

この2冊には明確な出版目的があった。
それは3D関連書籍が高価であるという問題だ。
3Dを教える現場の者として、以前からテキスト(教科書)の選定には苦労していた。
3D関連の書籍は、学生が購入するには非常に高価なのだ。

読者の多くは「これ一冊で!」などと願うかもしれないが、私は学習用の書籍が一冊で事足りるとは思っていない。
もちろん一冊で望む情報が全て手に入れば、そんなに有難いことは無いのだが、執筆目的や知識、テーマ、伝えたいポイントが違う著者のために、たとえ初心者対象とした入門書であってもその内容は様々だ。

結果的には何冊も似た本を購入し、最終的に一つの望む情報を手に入れるものだ。
そのためにも書籍の価格は十分に安価でなければならない。
「安価」とはもちろん単に安いといった意味ではなく、妥当な価格といった意味である。
私はこの妥当な価格が、初心者対象の入門書であれば消費税込みで3,300円以下(理想的には3,000円以下)だと思っている。
学生が1万円で3冊購入できる金額だ。

通常、出版社が書籍の販売価格を決める場合、著者へのロイヤリティや紙代などが標準的な費用と想定した場合、ページ数を基準とする。
情報量(ページ数)が多くなれば書籍の本体価格は高くなる。
もちろん出版社側も、最小の販売数を見越して利益計算を行い価格を決定する。
出版不況の現在、書籍はそんなに売れるものでもない。
初期ロットの2000冊を3000円で売るよりも、4000円で売った方が利益は大きい。
また出版社の規模によっても書籍代金は左右される。
大きな出版社ほど安い価格設定が可能であることは紛れもない事実だ。

執筆のモチベーション

しかしこの価格設定は、その書籍の潜在的なニーズをあまり考慮しているとは言えない。
Blenderという3Dソフトには以前から注目していた。
このソフトにも市場のニーズがありながら伸びきれない要素があった。
それがユーザーインターフェイスの特異性だった。
「変態的」とも言われたそのUIが見た目に大きく変化したとき、私自身はBlenderの伸びを確信した。
(まぁ、Blenderは変わったフリをしているだけだが。)

正直、私が最も注目しているのは、常にWEBとオープンソースと自由である。
最初に出版した書籍、『オープンソースCMSテンプレートデザイン―Dreamweaver & Fireworksによる』も、Joomla!と呼ばれるオープンソースCMSに関するものだった。
(なぜJoomla!にビックリマークが付いているんだ!)
残念ながらJoomla!だけでは弱いとの出版社の意向で、Nucleus、Zen Cartの二つを加えた内容となった。
そんな私にとって、Blenderもワクワクする、未来を感じさせるオープンソースだったのだ。

目的の幾つかは達成した

出版社との交渉の結果、『 入門Blender 2.9 ~ゼロから始める3D制作~ 』は税込み2,970円で販売が可能となった。
発売時期もタイミング良くバージョンアップに合わせることができたので、幸運にも比較的よく売れる本となった。
今現在、Blenderは3.0系がリリースされているので、書籍の売れ行きも3.0系の書籍に取って代わられていくだろう。

一つ目の目的

しかし、今発売される多くのBlender書籍は、私の書籍の価格設定の影響を受け、2,970円に設定された価格や以前と比べれば随分と安価な設定で出版されている。
その他の後発の書籍にも大きな影響を与えたようだ。
生徒のために3D書籍の価格を下げるといった大きな目的の一つが達成できた。

今年(2022年)に出版した『Maya スターターブック』の価格設定も本体 3,150円(税込 3,465円)と可能な限り低く設定して頂いた。
教育現場ではなんと言ってもMaya一強である。
恐ろしく高価なMaya本の世界に風穴を開けることができるのか。
こちらは、これからの様子見となる。

二つ目の目的

個人の目的でもある、私個人のための教材本の販売もできた。

三つ目の目的

新しい知識を吸収するための書籍は一冊では無理だ。
特に3Dソフトのような巨大なソフトの解説となるとなおさらである。
王道の入門内容は他の書籍に任せ、説明の偏りや過不足は否めないが、書きたかったソフトウェア全体を俯瞰するといった内容の書籍も書けた。

さてこれから

さて、今後出版予定の書籍はどうなるか。
書籍執筆は楽しくもあるが、これでは食っていけない。
楽しみよりも不安が高まる今日この頃である。

追記:電子書籍に関して

電子書籍の出版予定は無いのか、との問い合わせは何度か頂いています。
私自身、電子書籍にも少しばかりの造詣はありますので、書籍の電子化には前向きなのですが、現在の紙書籍の電子化は新たにレイアウトやデザインを行うのではなく、単なる紙本のPDF化に過ぎないものが多いのが現状です。
そのため、電子書籍化による利便性は少ないと思っています。
epubやpdfのフォーマットに限らず、今後、電子書籍としての再レイアウトによる出版が可能となれば改めて考えたいと思っています。




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